カテゴリ: 詞。あるいは、詩のようなもの。

eaeabe12.jpg






















逆上がりは得意だった

大車輪も出来た

小学生の頃は
走るのも早かった

そんな話をしながら
秋茄子の煮浸しを肴に
ひやおろしを口に含む

のどごしを酸味のある
想い出が通り過ぎて
胸にぽたりと落ちる時

過去の栄光が
千鳥足を始める

灰色の厚い雲は
記憶を曖昧にしようと 
小雨をぱらつかせるが

初めての体育の日の
あの青空の輝きを
くすませることまでは
出来やしない

運動会の歓声も
聞こえない故郷に戻り

人生をやり直すには
歳をとり過ぎたけど

放射能に汚染された
大地にでもいいから

あの美しい紫の
茄子の花を もう一度
咲かせてみたい

東京オリンピックから
52年経った10月10日

何もかもが変わった…

賑わいを忘れた
体育の日の今日

慰めに植えた
プランターの茄子が

深まる秋の中で
懸垂をするかのように
ぶら下がっている

懸命に ただ懸命に…

e4b5db12.jpg

    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

12.15












サンタクロースが父だと
判ったのはいつだったろう?

クリスマスケーキを買いに
父が街へ連れて行ってくれた時

寒さしのぎに暖簾をくぐった
ガード下の小料理屋

カウンターだけの小さな店は
時折り頭上を走る
井の頭線の電車の音で
会話が聞こえなくなる

7b1830c1.jpg











何を食べたかは忘れたが
割烹着姿の綺麗なママさんが
幼い私の頭を 
やさしく撫でてくれたことは
今でも憶えている

父とその人の楽しそうな顔に
母が欲しいと思った

母の胸は父よりも
柔らかいのだろうと想像した

サンタクロースが
父であることは判ったが

その人が母であることは
恐らくないだろう

が、定かではない…

父がサンタクロースなら
母をプレゼントしてくれるかも

いらすとや サンタとトナカイ













ガタンゴトンガタンゴトン…

無邪気なのか
大人びていたのか

楽しかったのか
哀しかったのか…

父に抱かれ 店を出ると 
外はうっすらと雪化粧

温かい父の胸に顔を埋め
見送るママさんに手を振った

12.15










大好きな父と二人
小雪舞う吉祥寺の街を
そぞろ歩いたクリスマスの夜

父がいればいい…
母は要らない

サンタクロースも
プレゼントも要らない

ガタンゴトンガタンゴトン…

あの小料理屋も ママさんも
そして父も 昭和も

すべては時の彼方

12.15










井の頭線のガード下に響く
枕木の音を
ジングルベルに置き換えるのは
無理があるだろうか

ガタンゴトンガタンゴトン…
ジングルベルジングルベル…

父と過ごした時代を載せて
サンタクロースがやって来る

サンタクロースは父じゃない
もう父はいない

クリスマス サンタクロースの表札











 
    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

fe75ebc4.jpg





















木枯らしの訪れを
待たずして散った柿の葉を
眺めるように 月は輝く

わずかに残る実を
金色に照らし
その数を私に教えながら
月は満ちてゆく

明日また 鳥が来て
柿の実をついばむだろう

そして私は
薄くなった日めくりを
一枚ちぎる

師走間近の晩秋を彷徨う
夢追い人の靴の音に
そっと耳を澄ましながら


枯葉黒いハイヒール














    このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ