サンタクロースが父だと
判ったのはいつだったろう?
クリスマスケーキを買いに
父が街へ連れて行ってくれた時
寒さしのぎに暖簾をくぐった
ガード下の小料理屋
カウンターだけの小さな店は
時折り頭上を走る
井の頭線の電車の音で
会話が聞こえなくなる
何を食べたかは忘れたが
割烹着姿の綺麗なママさんが
幼い私の頭を
やさしく撫でてくれたことは
今でも憶えている
父とその人の楽しそうな顔に
母が欲しいと思った
母の胸は父よりも
柔らかいのだろうと想像した
サンタクロースが
父であることは判ったが
その人が母であることは
恐らくないだろう
が、定かではない…
父がサンタクロースなら
母をプレゼントしてくれるかも
ガタンゴトンガタンゴトン…
無邪気なのか
大人びていたのか
楽しかったのか
哀しかったのか…
父に抱かれ 店を出ると
外はうっすらと雪化粧
温かい父の胸に顔を埋め
見送るママさんに手を振った
大好きな父と二人
小雪舞う吉祥寺の街を
そぞろ歩いたクリスマスの夜
父がいればいい…
母は要らない
サンタクロースも
プレゼントも要らない
ガタンゴトンガタンゴトン…
あの小料理屋も ママさんも
そして父も 昭和も
すべては時の彼方
井の頭線のガード下に響く
枕木の音を
ジングルベルに置き換えるのは
無理があるだろうか
ガタンゴトンガタンゴトン…
ジングルベルジングルベル…
父と過ごした時代を載せて
サンタクロースがやって来る
サンタクロースは父じゃない
もう父はいない